読めないものを
決済する市場基盤。
zkFMI は金融市場基盤のためのプロトコル群です。市場は注文を見ず、決済層は金額を見ません。それでも、価格が提示された中で最良だったこと、そして取引の両脚(受渡しと支払い)が同時に動いたことは、誰でも検証できます。掲載する数値にはすべて裏付けとなる計測記録(artifact)があります。限界はすべて文書に書いてあります。
2026-09-12 · note 決済と秘匿範囲 · PQC 研究の現在地 · 最新の実行証跡と限界
決める場所は自由、指図は一つ、決済は中身を読まない
移転を決めるのは、見積市場や板のような市場でも構いませんし、ファンド管理者・担保エンジン・銀行の審査のような業務システムでも構いません。どちらの場合も、その判断は封印された一つの指図に載ります。決済層はその指図に付いた証明を検証し、両脚を同時に動かすか、どちらも動かしません。何が決まったのかは知りません。このサイトで例に使うのは見積依頼(RFQ)です。勝った価格は commitment(中身を隠したまま値を固定したもの)のまま市場を出ます。同じ commitment について、最小値であることが証明され、定足数(署名に必要な数のノード)が署名し、指図がそれを運び、台帳の積の証明がそれを消費します。値は一つ、証明は四つ、一度も開きません。ファンドの申込、担保請求、二通貨決済も同じ経路を通ります。違うのは指図を出す側だけです。
決済が読まないもの
- 金額
- 価格
- どの銘柄か
- 誰が誰に払ったか
- メイカーの値付け規則と負けた見積
隠す仕組み
- Pedersen commitment と範囲証明
- asset tag(資産種別の識別子)。隠した形で、移転ごとに作り直す
- note(1 件ごとの受取記録)の台帳。one-of-many の ring(本物をおとりに混ぜた候補の集合)付き
- 7 ノードへの Shamir 秘密分散。過半数が正直なら(honest majority)、不正な参加者(malicious)に対しても安全
- handle(市場ごとの口座識別子)。一つの seed から市場ごとに別々に導出
決済が確かめること
- 価値が生成も消滅もしていない
- 残高が負にならない
- 資金脚 = 数量 × 価格
- 両脚が動くか、どちらも動かない
- 一つの指図は一度だけ決済される。署名は 3-of-7 の定足数
構成要素
プロトコルの核は指図と台帳です。その脇に資格と清算があります。市場と業務システムはその上に載り、どれも指図を出す側として入れ替えられます。コードは zkFMI 組織の下の 8 つのリポジトリに分かれています。状態は共有せず、明示したポート(入出力の口)だけでつないでいます。
zkPI
ゼロ知識証明付きの決済指図。市場の判断を、その判断の元になった入力を見せずに証明できる形にしたもの。中身は、金額・価格・資産の commitment、nullifier(二重使用を防ぐ使用済みの印)、期限、FROST による定足数署名、閾値範囲証明 2 本。wire 上では 9,726 バイト。
DeFMI
分散型の金融市場基盤。commitment にした残高の上での DvP と PvP、ring 署名付きの note、asset tag、ネッティング、デフォルト・ウォーターフォール、正本台帳との照合。専用の非 EVM Avalanche L1 として動く。
DeKYX
分散型の Know Your X。ある行為に必要な資格だけを、匿名の提示で証明する。提示は相手(audience)、行為、nonce、期限に結び付ける。scope(用途の範囲)別の nullifier、署名付きの失効一覧、鍵の交代。scope ごとに仮名だが、発行者から見た連結不能性はまだない。
DeCCP
分散型の清算機関(CCP)。閾値署名で管理する清算簿、gross-gross から net-net までの清算サイクル、証拠金、中身を隠した保証枠、決定的に決まる損失ウォーターフォール。状態を進めるのは、その提案そのものに対する DeFMI の受領証があるときだけ。更改(novation)は 1 取引あたり 0.53 µs。
Aethel
プログラムできる支払ストリームの債権化。署名された支払ストリームを、資金調達に使える債権にする。与信判断、保証、資金、サービシングは、独立した提供者が scope を限った capability(権限の札)を通じて供給する。決済は型付きの zkPI を発行して行う。
他の業務システム
zkPI と DeFMI は QOMM の部品ではない。ファンドの申込・解約、担保・証拠金の請求、二通貨 PvP、発行と利払、債権、環境証書。移転を決める主体なら誰でも指図を出せる。
他の方式の中での位置
六つの軸で比べ、優劣を両方向に書きます。大半の軸では他のどこかの方が強く、二つの軸では他に誰もいません。
| 従来の FMI の連鎖 | DLT 上の DvP 実証 | Canton(Daml アプリケーション) | MPC ダークプール(Rialto、P2DEX、Renegade) | Prime Match(J.P. Morgan) | 監査可能 MPC(BDO 2014、Rivinius 2022) | zkFMI | |
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 市場が注文を見る | 見る | 見る | 自社の validator と業務側が見る | 委任された relayer が見る | semi-honest なハブが見る | 見ない | 見ない |
| 決済が金額と価格を見る | 見る | 見る | 当事者の validator が見る | おおむね見る | 見る | 対象外 | 見ない |
| 最良執行を外部者が証明できる | 報告書のみ。検証不能として廃止 | できない | 当事者が規則を再実行する | 照合の証明はあるが、注文集合はない | できない | 回路の正しさ | できる。市場機構そのものを証明 |
| 清算: 更改、ネッティング、ウォーターフォール | CCP | 一部 | アプリケーションごと | なし | 銀行の処理系 | なし | DeCCP、commitment 上で |
| 頑健性 / 説明責任 | 法制度 | 合意 | 当事者 + BFT 順序付け | まちまち | 銀行 | Rivinius: 両方、11–20× | 第 1 段を配備。第 5 段は n=9 で実装済み |
| 本番稼働 | あり | 実証 | メインネット、商用レポ | 一部 | あり | なし | 研究、1 台のホスト |
先行研究のページには論文ごとの比較があり、初期稿から撤回した 3 件の主張も載せています。他のシステムとの比較は、2026-09-05 時点の公開資料に基づいて 18 の製品・プラットフォームを扱い、Canton は詳しく述べます。
信頼は実際にどこに置かれているか
誰でも検証できる(説明責任の第 1 段)
quote proof(見積の証明)により、勝った見積が commitment された鍵の中の最小値だったことを誰でも検証できます。配備している MPC は、不正な参加者に対して abort(中断)付きで安全です。つまり逸脱は検出できますが、誰の逸脱かは特定できず、計算を続けることもできません。n ≥ 4t+1 で成り立つ頑健な復元(逸脱があっても結果を出せる方式)は、9 ノードで実装し計測済みで、配備中のエンジンより安価です。配備中のエンジンは 7 ノードで動いています。
検証者は提出物をすべて検証する
各 Avalanche 検証者は、次のすべてを独立に検証してから、状態遷移を原子的に適用します。3-of-7 の承認、型付きの指図、quote proof の全体、共同で作った範囲証明 2 本、テイカー(依頼する側)の価格上限、資産の対応、DvP の関係式、期限、順序番号、直前のルート、nullifier です。
検証者が再実行しないもの
検証者は、非公開の MP-SPDZ の実行記録を再生しません。share(秘密の分割片)から証明への受け渡しは、二つの手当てで閉じています。MPC の体を commitment の群の位数に合わせること、そして参加者ごとに入力を検査することです。それでも委員会への信頼は残ります。その信頼境界は暗黙にせず、wire 仕様に明記しています。
耐量子化は、意図して半分まで
署名と鍵交換は、古典方式と耐量子方式を組み合わせたハイブリッドへ移行中です。署名は Ed25519 + ML-DSA-65、鍵交換は X25519 + ML-KEM-768 で、どちらも両方の方式を必須とし、片方だけへの降格は拒否します。1 台のホストで受入済みで、2026-09-07 以降は 8 リポジトリすべての main に入っています。ゼロ知識の関係式は離散対数のままです。群を使わずに何度でも開ける commitment ができるまでは変えません。現状。
匿名性は他人の通信量
ring(本物 1 件とおとりを混ぜた候補の集合)が 16 でも、周囲に他の決済がなければ、どの note が本物かは確実に分かります。他の決済が 16 件分あり、おとりの新しさも本物に合わせてあれば、観測者の当てる確率は名目どおりの 1/16 に留まります。群衆に隠れる構成は、誰もいない部屋では何もしません。計測値がそれを示しています。
三つの入り口
これを土台に作る
- zkPI の wire 配置とテストベクタ
- DeFMI が検証すること、次に note 台帳
- 計算結果を commitment に束縛する
- clone、テスト、L1 ゲートの実行
これは何ではないか
これは研究実装です。監査は受けていません。資産を預からず、トークンもありません。複数ノードでの受入は、すべて 1 台のホスト上で、一人の管理者の下で、プロセスまたはコンテナとして走らせたものです(AvalancheGo 検証者 5、MP-SPDZ 参加者 7、板ノード 7)。独立した組織をまたぐ配置、実際の WAN、HSM に保管した鍵、法的 finality(決済の法的な確定)のある制度の下では、まだ動かしていません。日本の振替制度の下では、DeFMI は振替口座簿そのものにはなれません。口座簿の写しを持ち、正本と照合します。ここにあるものはどれも規制への準拠ではありません。「監査可能」は統制のための材料であって、統制そのものではありません。現状のページに、現在のゲートと本番の間にあるものを項目ごとに列挙しています。